「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第二十一話。第100回薬剤師国家試験の足切りと、その余波について。
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2015年3月2日
自己採点の結果とは言え、やはり予備校の申込みをしなければ……。
午前11時からの受付を予定していたが、再びサーバーダウンを起こしている。予備校側もネット予約のみに限定しており、電話もつながらない。パソコンとスマートフォンの二台体制でアクセスするも、全くつながらず……。12時頃になり、次の予約時間は16時と表示された。その後、なんとか予約が出来たものの、この作業だけで心身が疲弊してしまった。予定というものが予定どおりにいった試しがない。
また、薬学予備校が増設するようだ。大都市はもちろん、地方にもぽつぽつ出来るとか。講師の募集なども行っており、去年よりも酷い状況だ。
「一問、たった一問。たった一問のせいで……」
彼女は、ものすごく後悔していた。直前にそれらしき問題を見ていたこともあり、急に不安になって最後の見直し時に解答を変更。その一問さえ変えなければ足切りは回避出来たのに……。あれだけやったのに、最後の最後で自分を信じきれなかった。
この時、「本番に弱い」という意味を僕は初めて理解した気がした。
努力するから、準備するから、気持ちも入るし緊張もする。過程が素晴らしいからこそ、本番が難しくなる側面があるかもしれない。過程は間違っていないだけに、突き抜けるきっかけさえあれば……。成功体験を得る難しさとその価値について、深く深く考えさせられる……。
合格基準と足切りについて
- 全問題への配点65%以上で合格
→一般問題が255問、必須問題が90問の合計345問なので、225点以上は必須! - 一般問題と必須問題それぞれで、合格基準を超えること
→一般問題:各科目35%以上であること(足切り)
→必須問題→:各科目の得点が50%以上(足切り)であることに加えて、合計で70%以上の正答率
引用:第100回薬剤師国試直前最終チェックポイント : 薬事日報ウェブサイト 薬学生版
試験科目は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7つ。
(一般問題と必須問題の違いは、この記事での言及は避けます。興味のある方は引用元のサイトをチェックしてみてください)
なぜ「物理・化学・生物」が鬼門なのか
予備校の自己採点システムを見た彼女の話を聞く限り、足切りにあった人は5割近くいるらしい……その理由の一つとして、傾向が大きく変わったとのこと。過去の国家試験の問題を中心に勉強することが大切だった今までとは異なり、既出問題でも考える力が求められる問題が増えた。暗記だけでなく、その上に応用力が求められるようになったという。
中でも、「物理・化学・生物」は約4割ほど足切りにあっていると予想が出ていた。
問題用紙を開いて、最初に目にするのが「物理・化学・生物」なので、初日の午前中が終わった時点で、涙をこらえきれない人が何人もいたとのことだった。
「物理・化学・生物」がセットになって1科目……要は、範囲が膨大の割に、出る問題数が少ない。しかも、他の科目と比較しても、実際の日常生活でも身近に感じられることがほぼなく、知識だけになりがち。よって、受験者の多くがこの分野を苦手とする。
(ちなみに、僕が勉強した感覚でも、「物理・化学・生物」が最もとっつきにくかった→薬学生が学んでいること)
彼女だけでなく、友人たちも自己採点で落ちていた。澪ちゃんは、足切り科目複数に合計点も怪しかったらしい。
現役でないと合格率が下がるというデータは、やはり正しいようだ。国家試験には廃問(出題ミスで点数がもらえる)が毎年あるとは言え、そこに希望を持つことは難しい……。
記念すべき100回だから、出題者が変な自己顕示欲を出してしまったのだろうか? 医療従事者でもなく薬剤師でもない僕からすると「???」である。自己採点の段階では、過去最低の合格率を更新することが予想される。この現象を見る限り、業界として考えれば今年の国家試験も失敗だ。どちらにしても、歴史的な国家試験だろう。
まあ、別にそれは構わない。僕が言いたいのは、なぜ「この二年に、過去最低の合格率が連続」して、なぜ「彼女がその年に当たる」のかということ……。
休暇が恐怖に
これで休暇になったが、一ヶ月の過ごし方が大きく変わってしまった。
気分がまず、上がらない。と言うか、何をしても上がるわけがない。持て余している大量の時間は、恐怖の感情しか生まない。
去年同様、すべてがチャラになった。幸い、内定先の病院への連絡だけは正式な結果が出た後でいいとのことらしい。第一志望のこの病院に入れなければ、働く動機はお金のためだけになる。お金のために働くことは絶対に悪いことではない。けれど、お金のためだけより、何か内なる理由があった方が良いことは誰もが知っている。
純粋に薬剤師になりたいという夢を持っている人だ。そういった人が求められているのは明白なのに。人材が目の前で失われようとしている。でも、僕の力ではどうにも出来ない。
「……もし、もう一回試験受けたら受かると思う」
何か言葉をかけなくては……と思って出た言葉だったが、、、。
「もうやだ。三回も受けてまた落ちたりしたら……」
自身の軽々しい発言を深く後悔した。この日、それ以上の会話はなかった。
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コメント
解凍を変えてしまった1問がなければ、ってところが悔し過ぎますね(´・ω・`)
うちの妹も本番に弱くて、医学部の試験、3年連続当日に体調を崩してまともに受けれないって事態になってました。
おそらくプレッシャーにやられるんでしょうね。
4年目にようやく体調崩さずに受けれて合格しました。