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薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた〜合格発表までの一ヶ月

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「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第二十二話。合格発表までの一ヶ月の話。

 

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挫折の投影 

 「タイミングが悪い」とか「運が悪かった」などと言われたことはないだろうか? たしかにその通りだろう。

 けれど、同じような経験をしていないから人に言えるのだ。なぜならば、そういった言葉を伝えられる経験をした人間ほど、実際は言葉に出来ない。その言葉をもらっても、何も救われないし変わらない。励ましにも慰めにもならないし、自分と相手の立場を明確に区切る残酷な言葉であると理解する。少なくとも、僕はその現実に直面している。

 

 感情をなくした彼女を見て、鬱気味だった過去を思い出していた。

 

 ――毎朝目覚めるたびに、強烈な挫折感に打ちひしがれる。呼吸も浅く、胸が常に苦しい。予定なんて全くないのに、また起きてしまった……と毎日のように思う。

 以前は、太陽の光が大好きで、日差しと共に目覚めていた。日差しを体いっぱいに浴びて、のびをして、深呼吸をすることが朝の決まりだった。今やそんな健康的な生活とは、全く無縁になった。朝ほど残酷で、今や嫌いな時間はない。唯一、この苦しみから逃れられる時間だった睡眠も、逆に苦しむ時間になってしまっている。ドラマや映画のように、うなされて目覚めることも、決して少なくない。

 

 生きることがこんなにも大変だなんて、全く知らなかった。大人はそれを分かっているから、公務員や手に職を得て安定した人生を歩めと言う。「夢を持て」と言う人も、実際に将来の進路を決める時期になると、「現実を見ろ」と言い出す。けれど、今となっては痛いほどに分かる。

 一体、大学で学んできたことは何だったのだろう。そもそも、何のために大学に行ったのだろう。大金を出しくれた親族の希望や想いを、全面的に裏切ってしまったのだ。こんな失敗作を持つ親の立場を考えると……。

 

 悲しいのはそれだけじゃない。時が経つに連れ、これまで出会った人々とも連絡が途切れていく。人生において何も結果が出ないのだから、こちらから連絡することは何もない。みなも、気を遣って連絡してこない。すると、当たり前のように孤独になっていく。

 こうして社会から脱落してしまった人たちは、今、一体どうしているのだろう。どうしてるのだろうと思いながらも、現実を知ろうとは絶対に思わない。知りたくない、知ることが怖い……。

 

 誰にも会わせる顔がない。話したくない。消えてしまいたい……

 

 当時は、人の気持ちを暗くしてしまう自身への罪悪感と不甲斐なさにも苛まれていた。

 僕が抱いていた感情と、現在の彼女が抱いている感情――全てではないにしろ、共通する部分はあるはずだ。とりあえず、ごはんだけはしっかり作ろう。食事は体だけでなく、心も作っている。

 そう決めた。
 

 

2015年3月3日~

 動画配信サービスを契約して、海外ドラマを見ることにした。

 

ブレイキング・バッド

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その教師、余命わずか。最後の賭けは麻薬精製。
 ニューメキシコ州アルバカーキ。高校で化学を教えるウォルター・ホワイトは内気で温厚で、真面目すぎる50歳の男性。第2子である娘を妊娠している妻スカイラーや脳性まひを持つため杖が放せない高校生の息子ジュニアとつつましく暮らすため、放課後は洗車場でアルバイトをしている。ところが肺がんだと判明し、余命はわずか2年と宣告される。そんなウォルターの中で、何かに火がつく。ウォルターは自分が亡くなった後に家族が苦労しないよう財産を残そうと、ドラッグの精製という超ヤバい副業に手を出す。かつて一流研究者だったがなぜか高校教師に転じたウォルターは、そのディープな化学の知識を駆使して純度99.1%という驚異のスーパードラッグを生み出し、元教え子であるディーラー、ジェシーをパートナーにして闇のビジネスに乗り出す。

 前々から見たかった海外ドラマ。『24』や『プリズンブレイク』から入った人間からすれば。スピード感やテンポの良さ=海外ドラマの魅力と勝手に考えていたが、そうではなかった。話はゆっくりと進み、人間関係の描写を深める。と思ったら、急展開の連続。緩急のある魅力的な脚本……という印象を受けた。シーズン1から見ていると、本当にシーズン5まで辿り着くのかと思ったけれど、最後は無事に終えた。

 また、シーズンを重ねるごとに、スカイラーとその妹にストレスを受けた。

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スカイラー・ホワイト役 Anna Gunn(引用:Cast&Staff|ブレイキング・バッド - オフィシャルサイト

 

 あのレベルのヒステリックな女性は、誰にも手に負えない。ただ、ストレスの元の怒りの感情を見つめ直すと、比較的良好な精神状態であることを自覚した側面もあった。

 当たり前のことだが、覚せい剤に手を出したらダメだ。自分で選んだ道は、関わる人間や環境をも選ぶことになる。全ての悩みは、人間関係によるものだ、とアドラー心理学でも言ってたっけ。

 

Dr.HOUSE

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患者はウソをつく。
主人公は、自分の患者はもちろん誰も信用しないアウトローな医師、ハウス。ヒュー・ローリー演じるグレゴリー・ハウス医師は患者に思いやりのある態度を見せないし、しないですむものなら患者に話しかけることさえしない・・・。
常に無愛想だが、慣習にとらわれない思考と完璧とも言える鋭い感性から周囲には敬意を払われている、まさに現代版ブラックジャックである彼は一匹狼のような診断医。伝染病専門医であり、優秀な診断医である彼は、命を救うために解かなくてはならない医学のパズルに挑戦し続けるのだが
受け持つ内科患者のリストは、他の医師たちが解決できないものばかり。
そのため彼は、これらの診断上のミステリーを解くために、若い医療の専門家たちによる優秀なチームを結成し・・・。

 元々、BS無料チャンネル「Dlife」で彼女が見ていたものを、途中から一緒に見るようになってハマった。せっかくなので、最初から見ることに。

 『ER』と違って、カタルシスが明確にある点が好き。個人的には、「みじめはついてまわる」というハウスの言葉がとても印象的である。人生って、みじめなことばかりだから。バイコディンや腰椎穿刺をこのドラマで覚えたという人もいるだろう。

 どのシーズンが一番好きか、みたいに言われるけれど、どのシーズンも面白いと思う。ウィルソンみたいな親友がいる人生は素晴らしいだろうな……そう言えば、僕の親友が急に二児の父になった。自分が何も変わらないうちに、周囲はどんどん変化していく。今後、それなりに距離が開くだろう。
 

 

 合格発表までの約一ヶ月。時間が過ぎることを待つだけの日々になってしまった。

(彼女の誕生日もあったが、記憶にない)

 

 あまりにも作品を見ていると、やはり時間を無駄にしているように感じてしまう。作品から何かを得るのは確かだ。でも、その何かを実生活に活かすことは難しい。

 とある映画監督の書籍にも書いてあったが、

「作品が好きで50回見ました!」と自慢げにファンに言われた時、

「いやいや、その49回の時間はどこへ行ったんだよ。無駄でしょ。そういうために作ったんじゃない」

 みたいなニュアンスの記述があったことを覚えている。休暇と言えども、そろそろ次のことも考えなければならない。

 

2015年3月26日(合格発表の前日)

「お参りに行きたい」

 とのことで、近所の神社にお参りに行くことになった。いよいよ明日が正式発表の日だ。

 

 ――大学受験の年の正月、彼女に付いていく形で太宰府天満宮にお参りしたことがある。三時間以上並んだが、それでも彼女の試験の結果は思わしくなかった。太宰府天満宮の息子(?)が受験に落ちたという話は、地元ならず福岡県では有名すぎるほど有名な話である。本当のところはどうかわからないが、神のご加護がついていても、落ちる時は落ちるのだ。

 お守りもそう。本当にたくさん貰ったけれど、目障りになったのですべて返納した。貰いすぎたお守りは、精神を病んだ時はただのゴミにしか見えなくなった。

「お守りをもらったから、人生においてプラスの経験を得た」

 と言える体験を、僕は持てなかったのだ。むしろ、お守り=また人の想いを裏切ってしまう、という恐怖の方が強かったりする。

 よって、僕は神仏を一切信用しなくなった。お参りもしない。何かにすがっても何も変わらなかったという経験は、自身に深く根付いている。

 結局、最後は自分だ。

 

 でも、彼女は違う。大学受験でもそう、今回の国家試験だってそう。良い結果を生んでいないのに。それでも、お参りする理由を聞いてみた。

「そこまでしてなんでするん? 十分に努力しとるけ良いんやない?」

「あんたの考え方は別にそれで良いと思うけど、最後の努力じゃ補えん運のところを、ちょっとだけお願いするんよ」

 ふーん、と思った。自分ではコントロール出来ない部分の運を引き寄せる、か……。人生で一番、「ふーん」と思った。


「もう一年やらな仕方ないね」

 マンションまでの帰り道。吹っ切れたように発した彼女の言葉には、エネルギーが感じられた。

 社会に出るのが遅れるので、薬学部の女性はただでさえ年齢を気にする傾向にある。

 でも、こればかりは仕方がないか。明日はいよいよ、結果発表だ。

 

 

つづき

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