僕の人生、変な人ばっかり!

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薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた

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 彼女が薬剤師になるまでの話を、色々と振り返っていきます。まずは、国家試験の結果を二人で一緒に見た時の話をさせてください。何回かに分けて書くノンフィクションです。

 この話を通じて、薬学部の実情や国家試験、あとは僕らの歩みを紹介できれば、、、と思います。「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第一話。

 

2014年3月2日

 パソコンに点数は入力した。あとはクリックするだけだ。

「するよ?」

 と言った彼女に対し、

「……いや、やっぱり一回落ち着こう」

 と言った僕の方が、なぜか緊張していたと思う。人の心臓は実に良く出来ている――と感じていたことを覚えている。心臓から鼓膜へ、鼓膜から耳へ。ものすごい振動が頭の中に響いていた。気持ち的には今にも破裂しそうなのに、この状況になっても鼓動が早まるだけだったから。

 今から、人の人生が変わる瞬間を見る。

 道は二つあって、一つは良い方でもう一つは悪い方。ハッキリと良し悪しを言い切れるあたりが国家試験の怖ろしさだと言える。この自己採点の結果次第で、「採点する」のボタンをクリックするだけで、向こう一年の過ごし方が決まってしまうのだ。

 極度の緊張感に包まれていたところ、彼女のスマートフォンが鳴った。友人の澪ちゃんからの電話だった。彼女が通話ボタンを押すと、電話口から泣き声のような音が僕の耳にも聞こえてきた。

「ちょっと話してくる」

 彼女はそう言って部屋を出た。

 ……無理もない。すべての薬学生は、この日のために最低でも六年間を費やすのだ。最低でもという言葉は、何事もなく六年で無事に卒業できる確率がそう高くないことを意味している。狭い人間関係や単位・進級試験はもちろんだが、金銭面や家庭の事情も絡んでくる。彼女の友人には心療内科に通っていた子もいた。大学に入るための浪人期間も含めるとそれ以上になる。僕は私大文系だが、それとは訳が違うのだ。

 部屋に戻ってきた彼女が言うには、一人で自己採点する勇気がなく、電話をかけてきたとのことだった。ただ、その電話越しの採点で、澪ちゃんが落ちていたことがわかった。

「マジか……とりあえず、先に予備校の予約する?」

 と言うのも、今回の国家試験の合格率は過去最低になる可能性が高いと随所で言われていたからだ。なので、早めに予備校の予約しておかないと入ることさえ難しくなると薬学部内で広まっていたらしい。

「ううん、もう結果見る。押すね」

 あっさりと彼女は押した。そして、カチッと押してからの数秒の無音の後、

「……ダメや」

 彼女はぽつりとつぶやいた。止まった時の中に僕と彼女だけが存在しているような錯覚に陥った。

「ウソやろ?」

 と、とりあえず言ってみるものの、その言葉は部屋に虚しく響いただけだった。

 後悔した。何を言えば良いのかわからなかった。と言うか……何も考えたくなかった。脳の機能を停止してしまいたい。でも、そう思えば思うほどに脳は回転数を増してしまうようで、現実的にやらなければいけないことが次々と浮かんでくるからタチが悪い。まずは引っ越し屋に連絡入れないと……引っ越しは中止だ。次に不動産屋。退去通知は既にしてあるから、今度は退去を取り消すことが出来るかを聞いてみないと。彼女の代わりに出来ることを僕がしなければならない、、、などと考えていると、

「お母さんに電話してくる」

 そう言って彼女は再び部屋を出た。

  絶望の中にいながらもやらなければいけないことがある。泣き崩れてもおかしくないのに。今やらないとこれからの一年が難しいものになってしまうことを理解しているのだろう。察しきれないけれど、彼女ならばそう思っているはずだ。具体的には、今後のお金の話になるだろう。

 

 僕からすれば、彼女は勉強が出来ないわけではない。どちらかと言えば、むしろ出来る方だ。要領が悪いわけではないし、努力を怠ることもない。何よりも、僕が見てきた人間の中で最も粘り強い。継続性もある。ただ……。ただ、少しだけ本番に弱い。それだけなのだ。それだけなのだが…………それが再び問題になってしまった。現に、彼女は本番前の模試の結果も抜群に良かったのだ。

 今まで苦労をかけて育ててくれた親御さん。決して裕福な訳ではないのに、薬学部に入れてくれた親に日頃から感謝の念を彼女は口にしていた。だから、想像を絶する。誰も喜ばない、誰も嬉しくない、誰もが言葉を失ってしまうような報告をしなければならないのだ。

 

 部屋に帰ってきた彼女は泣いているように見えた。普段は全く泣かない彼女が、目を真っ赤に腫らして涙を溜めていた。――――また色々と思い出してしまった。挫折という意味で、僕らは似たもの同士なのか。それとも違うのか。そんなことを考えていたら、彼女の涙につられたのだろう、僕も目からも涙が出ていた。

「ごめんね、ごめんね……」

 誰も悪くないのに謝り続ける彼女を見て、また涙が止まらなくなった。

 

つづき

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