「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第四話。2014年第99回薬剤師国家試験に落ちてバイトが決まった彼女と、その友人たちの状況など。
2014年4月上旬
この記事の続き↓↓第三話
「経歴に空白を作らないように」と大学側の配慮で、一年間は研究生として大学に籍を置くことになった。また、彼女のバイト先の薬局も早々に決定。所属していた研究室の教授のツテで、薬品卸会社の人から紹介してもらったのだ。
月~金までの週五日、9時~17時勤務。一般社員と何も変わらない。不合格の悲しみが影を落としていることは間違いない。けれど、それでも慌ただしい日々に再び身を置くことで、無理矢理にでも切り替えようとする彼女の姿勢が伝わってきたことを覚えている。
澪ちゃんは実家に帰省したが、ここで他の友だちについても言及したい。
よっぴ
彼女の友人の中には、国家試験に不合格だったにも関わらず、そのまま就職した人がいる。名前はよっぴ。よっぴは大手製薬会社のMRになった。
MRとはmedical representativeの略で、薬についての知識や情報を医師や薬剤師に提供する製薬メーカーの営業担当者のこと。直訳すると、医薬情報担当者だ。言ってしまえば営業職なので、国家試験の合否が就職に影響しない珍しいケースである。
新卒のMRの大半は、四年制大学の文系学部出身者だ。四年でなれるものを六年かけてなったわけだが、合格していれば大きなメリットがあった。新入社員のMRは認定試験を受ける必要があるのだが、薬剤師免許があれば試験科目の一部が免除される。
(1)医薬品情報 (2)疾病と治療 (3)医薬概論
医師、歯科医師、薬剤師は資格を確認し、(1)~(2)を免除しますMR認定試験より引用
もちろん、よっぴが勉強したことは無駄にはならないだろう。医薬系の知識に強いことは営業する上で強みになる。
よっぴの夢は、化粧品会社を立ち上げること。夢のために、お金を稼ぐことが出来るMRに絞って就活をしていたのだ。たまたま僕の知人にMRがいたこともあり、よっぴとは少しだけ就職や面接について話したことがある。赴任先は九州の田舎町になったという。
夢への第一歩を踏み出したことは間違いないのだが、やはり心残りは免許についてだろう。よっぴは働きながら取得する道を選ぶことになったが……。
小町
そしてもう一人。旅行中の彼女に「早く予備校申し込んだ方がいいよ」と情報を伝えてくれたのが小町だ。
「今年は合格率が下がるから、予備校に入れん子がたくさん出てくるらしい」
と、内定先のドラッグストアの人事部から電話がかかってきたという。それを聞いた小町は、すぐに彼女に連絡しようとも思った……が、旅行の邪魔をしてはいけない。。。でも……と悩み、「やっぱ連絡せなあかん!」という流れがあったと聞いた。
国試後で大変な精神状態だったにも関わらず、正しい判断をしてくれたことには感謝しかない。研究室が同じで、彼女にとって最も仲の良い友人の一人である。また、小町と彼女と僕の3人でよく食事にも行っていた。
三人で遊ぶようになったきっかけ
小町と三人で遊ぶようになったきっかけは、僕が東京のパティスリーで買ってきたケーキを三人で食べたこと。僕の趣味に付き合ってくれる形で仲良くなった。大量のケーキを一緒に食べて、細かい意見交換の出来る小町の舌に惹かれた形だ。
「小町と会うのは、人生であと二回くらいかな」
と僕が言うと、
「ひどいわあ。またそうやっていじめる」
と小町は嘆く。それを聞いた彼女が
「冷たい人。ごめんね小町」
と言うので、僕は
「ぴぃ」
と言わざるをえない。
このような呑気なやり取りを2月にしていたのだが、4月の上旬に再び会うことになった。小町の就職先が名古屋だったこともあり、また会えることになった。
そう、小町は合格したのだ。
小町の車に乗せてもらい、回転寿司へ向かう。生け簀に魚がうじゃうじゃと泳いでおり、その場で捌いて出してくれる。特に、かわはぎが美味しい。肝をつまんでそのまま刺し身と一緒にもみじおろしで食べると、まあ~美味い。
「また小町と会えてうれしいな」
と僕が言うと
「この前と言うてることちゃうやん!」
としっかりツッコんでくれたことが嬉しかった。
食後は純喫茶へ行き、コーヒーを楽しむ。天井が高く、隣のテーブルとも距離があり、心置きなく会話を楽しめる。彼女と小町の会話に入れなくても、雑誌や新聞なども一式置いてあり、長居も可能。喫煙と禁煙でしっかり区画が別れており、店員との会話を楽しみたい人や一人客はカウンターも利用できる。深夜帯なのに多くの大人が集まっており、名古屋の喫茶店文化を肌を持って感じることが出来る。
小町は4月1日に入社式を終え、現在は研修中。日々知らない人と昼食や飲み会など。新生活に馴染むことに追われていた。
彼女からすれば、明暗を分けた存在が目の前にいる。合否が割れて惨めな気持ちはあったかもしれない……と思ったが、小町の常に他人を慮る優しい人間性、そして六年の苦楽を共にしたからこそ、こうして再び会えるのかなと思えた。
僕
そして僕のことも。二年間の就活で企業を周りに周ったが、内定をもらうことは出来なかった。福岡に帰ることよりも、彼女を主に家事面で支えながら、お金を稼ぐ選択をした。もちろん、何度も土下座をして。
バイト終わりの彼女を迎えに行き、家事面で完全サポートに徹し、勉強に集中できるように頑張る。このようにして、居候になった。
つづき
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