「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第十四話。重い話が続いたので、居候の失敗談を一つ。
この記事の続き↓↓
2014年10月
居候生活にも慣れてきた頃。
食品を閉まっている棚の中を掃除していると、ジップロックに包装されたしるこサンドを見つけた。しるこサンドとは、東海地区を中心に絶大な人気を誇っているお菓子だ。
松永製菓ロングセラー商品。北海道産あずき100%のあんをサンドしています。本製品は卵・落花生を含む商品と共通の設備で製造しています。
主に東海地方では、小さなお子様からご年配の方まで幅広くお召し上がりいただいております。
お茶菓子や午後のティータイムのおやつとしても是非ご活用ください。
初めて食べた時から虜になり、東京に住んでいた頃は必ず買って帰っていた。
久々にお目にかかったしるこサンド。約8割程だろうか、きれいな状態で残っていた。包装の美しさも含め、僕の心は躍った。
「少しだけなら食べてもいいかな」
という安易な気持ちで1枚を口に運んだ。ん~。芳ばしいクッキーの香りと朗らかな甘み。そこそこ高めのカロリーだが、それを勝る美味しさがある。北海道産あずきはもちろん、りんごとはちみつの甘味がクセになるのだ。
「これこれ♪」
好きな人ならわかってもらえると思うのだが、一口食べれば自動的に手と口が動く。意識が明確に戻ったのは残り4枚になってからだった。いけないとは思いつつも1枚食べ、悪い予感しかしないけれどもう1枚を食べ……まあ、2枚残していれば、全部は食べてないという口実を作れる。1枚だけ残していると、逆に何で残したのかという事態に発展しかねない。我ながらなかなかの意志の強さだな、そう思ったことを覚えている。
その後、予備校から帰宅する彼女を駅まで迎えに行った。
「なんかあったん?」
「ん? 別に」
「……怪しい。何かあったやろ?」
第一声で謝ろうとも思ったが、とりあえず止めた。謝ることで機嫌を損ねてしまったらどうしようという懸念があったからだ。謝るならば機嫌が良い時に……コレは鉄則中の鉄則だ。
そのまま手をつなぎ、いつも通り家へ帰ろうと思った時……
「なんか今日、手が湿ってない? 手汗すごいよ?」
「そう? 家を出る前に、水飲み過ぎたかな」
「ふ~ん。とりあえず、手ぇ離して」
「……」
怒られる
いつものようにご飯を食べた後、事件は起きた。
「ああー! ない! しるこサンドが全然なくなっとる!」
こんなにも早く見つかるとは……。
「勉強する時のために買ったんに、どうしてくれるん? うわ! しかも、あと二枚しかないやん。さっきの微妙な受け答えってこれやったんや」
「あまりに美味しくて、つい」
「はぁあああああ!?」
「あ……、その、いや、うん、間違えてしまったんよね」
「はあ!? あんた、面倒見てもらっとる人に対して、ようそんな態度が出来るね!」
「いや、出来んよ」
「出来んよってしとるやん。平気でしとるやん」
「すみません……」
「ったく。もしかして、家から出ていきたいと? それなら何食べてもいいけど。どうぞ。むしろ食べさせてあげる。はい、あ~ん」
「ぴぃ!」
結局、しるこサンドは明日買うということで、今回はこれで収まった。
「何も言わんかったら、全部食べるけねコイツ。前だって、コレ言うほど美味しくないやん、とか言いよったくせに、次に買ってきた時、コレ美味しい~とか言って、平気でバクバク食べるし。全くもって理解に苦しむわ。もし、次に何か勝手に食べたら、あんたの荷物、全部ベランダから外に放り投げてやる!」
「ぴぃ!」
「ぴぃやねぇ!!」
自分の無力さと立場を再確認した出来事だった。しるこサンドに限らず、人のモノを勝手に食べてはいけない……!!
最近食べたしるこサンド。やっぱり美味しい!
つづき
全話をまとめた記事はこちら↓↓