薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた~薬局でバイトを始める

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「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第五話。2014年第99回薬剤師国家試験に落ちた彼女が、薬局でバイトを始めた話など。

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大学時代にグルメ本を出版・書評コンクール入賞など、文筆に傾倒。就職できずに当時薬学生だった彼女のヒモになるが、一念発起して立ち上げたブログで生計を立てることに成功(その後、結婚!)。ゲームやマンガなどエンタメ分野のレビュー、感謝を綴ったエッセイが好評。ブログ歴8年目になり、当時の内容を綴ったノンフィクション小説の電子書籍化が決定。

二〇一四年四月下旬

バイトはじめ

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バイト先の薬局は名古屋の外れにある。門前は、小児科と内科全般を診療するクリニック。もちろん忙しい時間帯もあるが(そんな時に限って株や物件のセールス電話がくるとか)、基本的には余裕を持って仕事に臨める環境のようだ。

また、仕事の合間に勉強することを理解してくれている環境だという。さすがに計算や考察などの勉強は出来ないものの、「暗記」には取り組めるとのことだ。

職場の薬剤師の先生方は、五十歳後半を超えた女性のみ。ほわほわ~としており、まるで孫を見るような目で可愛がってくれるらしく、ひとまず安心した。仕事が落ち着く午後には「ティータイム」が設けられる日もあり、メンタルのリハビリとしては最適なんじゃないかと勝手に思っている。

一昔前ならば、「薬を出すだけのラクな薬局」というイメージを抱き、その仕事内容を理解しようとしなかった。なので、過去の自分に向けた意味でも説明したい。

薬局で行う仕事の流れ

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①患者さんが持ってきた処方箋を受付で預かる。

②その処方箋を元に調剤をする。調剤とは、処方箋に基づき薬剤を調製すること。

③薬剤師が鑑査をする(飲み合わせは大丈夫か、用法用量は問題ないかなど、最終確認のようなもの)。

④薬剤師が患者さんに薬の説明をして渡す。

⑤薬剤師は患者さんの指導記録を書く。イメージとしてはカルテのようなものだろうか

薬学部の5年生が行う実習では、①~⑤まで経験するようになっている。彼女は国試に落ちたので薬剤師免許はない。そこで、②の調剤を手伝うのが彼女の主な仕事になる。

経験ある薬剤師は、②の調剤において、処方箋の内容が正しいかを瞬時に判断する。扱っている薬の種類や用法用量を経験と実務で覚えているので、患者さんの症状と薬に違和感があれば、この処方箋を出した医者に問い合わせて確認や修正を行う。薬を間違って出せば一大事なので、それを未然に防ぐためだ。

しかし、彼女はそのような知識・経験がない。この薬は何mgまで使って良いのか。毎食後に飲むのか、それとも朝食後だけに飲むのか……。本来ならば覚えておくべき知識だが、あくまで国家試験に受かるためのアルバイトである。なので、この薬が何の薬なのか、という大まかな点だけを覚えたという。

 

彼女がバイトを始めて一週間経った。そして、毎日のように薬局に来る「変な患者さん」の話を聞いた。

門前のクリニックが昼休みになると、薬局内も待合室の明かりを落とす。その時間を狙って、自前のおにぎりを持参して、待合室で一人ゆっくりとくつろぐ。薬を貰いに来れば薬局的に問題ないのだが、そうではなく、おにぎりに合うお茶を無料で飲みに来るだけらしい。いくら注意してもやんわりと受け流す話術があるらしく、結局は根負けするんだとか。もちろん、このおじさんがしていることは褒められたことではない。

ただ、僕は思うのだ。孤独で押し潰されようになっていた時、たった一言の会話に救われた経験はないだろうか――苦しくて苦しくて、そんな時に声をかけてもらったことで、心の澱が全て消えていったような経験が……。もちろん一例だが、人と話すことで人は救われる。

 

用もないのに話しかけるな、とか、わからないことがあったら事前に調べろとか、そう言う人が間違っている訳ではない。各々にそのような考えに至った背景が必ずあるからだ。だが、単純に「人と話す」機会が減っていることは間違いないだろう。

医療従事者に限ったことではないけれど、孤独死や無縁社会という言葉は、より現実のものとして目の前にあるかもしれない。

つづき

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