「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第六話。国家試験に落ちた彼女がバイトを始めて少しずつ物事が動いていく話など。
バイトを始めて二週間後
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薬剤師一人と彼女の計二人で、大型の介護老人施設に薬を持って行ったと聞いた。
開業医が担当の施設に訪問
→毎週一回、処方箋を発行する
→施設と契約している薬局に、その処方箋が回ってくる
→処方箋を元に調剤して、薬剤師が施設へ持っていく
という流れだ。
患者さんの中には、病院に行ったり、薬局に訪問することが難しい方もいる。施設に入院しているならば尚更だ(この施設は認知症などの人も多かったとのこと)。施設には、患者さんの名前を書いた箱がある。「お薬管理ケース」と呼ばれるその箱に、薬を入れていくのだとか。
このような容器の中に薬を入れていく
薬剤師は薬局から外に出ないイメージがあったので、少し驚いたことを覚えている。
同じ立場の友人との出会い
彼女と同じく、国家試験に落ちてバイトすることになった子が入ってきた。名前はみっちゃん。違う大学だが、年齢も近く自然と話すようになったという。
みっちゃんは午前中だけのバイトで、午後は家の手伝いをする。なので、お昼ごはんも一緒にならない。話す時間は短いが、その会話の中で、
「予備校の半年コース行くんよ」
「ええ、そうなん! 一緒だね」
と言うような会話があり、同じ予備校に同じタイミングで通うことがわかったらしい。
予備校に入る前に、同じ境遇の友人と出会えた。これは絶対に心強いはずだ。
名古屋にもう一年住める
一年に何回か、彼女と小旅行へ行く。超インドア派の彼女に、旅好きな僕がプレゼン。成功すれば行くことになる。とは言っても、付き合ってもう七年(当時)になる。僕は大学時代に東京で一人暮らしをしていたが、その時から名古屋を起点にちょこちょこと全国に出向いていたから、愛知県内はもちろん、伊勢・志摩、関西なども充分に巡っている。
しかし、改めてもう一年だけ名古屋に住めるとなれば、行きたい場所があった。
タイミングが合えば行きたい……長年そう思ってはいたものの、そんな生半可な気持ちで行けるところではない。
と言うのも、行ける期間が4月中旬から11月末までと限られている上に、名古屋からの移動時間も含めると二泊以上が妥当。予算も高めである。最も有名な雪の大谷は時期的に見れない。
それでも、黒部ダムや室堂平、雪の大谷や称名滝といった見どころは尽きない。
「予備校始まる前に時間あるやろ? ストレスの発散と勉強に集中するためにさ、アルペンルート行こう! たくさん見どころあるし、リフレッシュには最適やと思うよ」
「都合のいい言葉並べとるけど、結局自分が行きたいだけやろ」
「……そんなことないよ」
「へいへい。勝手にしておくれ。ただし、日程が合えばね」
少しずつ、少しずついい流れが傾いているような気がしていた。
人生あるある
優しい人々に囲まれ、たまにティータイムもあり、仕事の合間には勉強も出来る。環境に馴染んできた上、新しい友だちとの出会いもあった。……しかし、そんな平和な日には必ず終わりがやってくるのが人生だ。
なんと、彼女だけ職場が変わることになった。
「なぜか私だけ異動っていう……。せっかくみんなと仲良くなってきたんに」
しかも、その知らせを聞いた薬剤師の先生方のリアクションがアレだったらしく、
「あっちはねえ~……」
「あー……」
「……とにかく……忙しくなるよ」
と歯切れの悪さがそれはもう凄かったとか。
「すごくいい雰囲気やったのに……」
と嘆く彼女に対し、
「まあ、次の職場でも誰かに可愛がられるって」
「そんなんわからんやん」
彼女にそう言われて、我ながらテキトーなことを言ったなあ……と思ったが、こういった時はテキトーを貫き通す。
「また仕事の幅が広がって将来に活きるよ」
「……」
「8月までやし、まあいいやん」
「フン!」
あんたはテキトーなこと言えるけ良いよね! という意図を感じつつ、ポジティブな言葉を絞り出した僕に対して少し感謝もしているような彼女の表情を察し、物事が良い方向へ向かうように祈ったのであった。
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